今月は無事?戻ってきました。またぼちぼちと好きなものを好きなように紹介していきます。
今回ご紹介するのはジョージ・ソーンダーズ著、『短くて恐ろしいフィルの時代』(河出書房新社)です。最近文庫化されたばかりですが書かれたのは2005年。でも帯に書かれているとおり、本当に「今」を感じさせる作品です。
国民が一度に一人しか居ることのできないほど小さい「内ホーナー国」。その他の国民は「内ホーナー国」を取り囲む「外ホーナー国」に設置された、一時滞在ゾーンにひしめき合うように立ったまま、中に入る順番を待っている。そしてそれを外ホーナー国の人々(と言っても5名ほど)が、内心こけにしつつ眺めている、というのが物語の発端です。
設定からしてものすごくナンセンスですが、この調子で話はどんどん続いていきます。ある日、急に国土が縮んでしまった内ホーナー国、どうしでも現住人の体全体が国に収まりきらなくなってしまった内ホーナー国に対して、外ホーナー国市民であるフィルは、国境侵犯という問題の解決策に税を取り立てることを提案し、そこから彼は熱狂的なスピーチによって頭角を現していきます。
国民によって選ばれたはずの大統領には能力が無く、側近たちは先回りするように大統領のダメさを庇い(いわゆる忖度?)、しかしフィルというもっと分かりやすい代わりを見つけると、あっさり大統領を見捨てていく。マスコミは国の発表をセンセーショナルで解り易い見出しにし、それを大声で繰り返す。そして異議を感じた国民の声はかき消されてしまう…
不可抗力で国に居られなくなった(というか収まりきれなくなった…)人々に対して示すべきはまず思いやりであって、自国の土地利用代金を要求することではないはずで、私は入管での人権軽視による死亡事件や、難民、亡命者への日本政府の冷淡さを思い出しました。他にも今の社会状況と照らし合わせずにはいられないエピソードの数々。もしかしたら現状の方がすでによぼど不条理なのかもしれません。
誰かが将来この時代を振り返り、『長くて辻褄のあわない日本という時代』という物語を書いたりして…など、今の時代を表す仮タイトルを思わず想像してみるのでした。フィクションは私たちの想像力を刺激することで、解説書よりよほど強力なパワーを発揮することがありますが、まさにそういう作品だと思います。
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今月はオタマに代わり、先輩オハギに登場してもらいました。特に意味は無く…オタマも相変わらず元気にしています。(推定1歳になりました)]]>